今回インタビューに応じてくださったのは、独自のアプローチで個別指導塾を全国に広げ、地方における学びの選択肢を創出している株式会社ベストコの井関氏。
自身の将来像に迷い苦悩する若者へ向けて、「自らの価値観でキャリアを導く術」を探るヒントを届けます。
実は、高校3年生の直前までは歯医者を目指していました。父親が歯科医だったので、特に深くは考えずに「自分も同じ道に行くだろうな」と思っていました。
ただ、いざ進路を決める段階になって父親から歯医者以外にも選択肢を広げて良いと話を受けたことがきっかけで方向転換をして、以前から興味のあった美術関連で探し、受かったのが教育学部の美術科でした。
大学時代は、圧倒的な劣等感の塊でした。高校まで美術関連の専門的なことをやってこなかった私から見れば、周りの学生との実力の差は「幼稚園児とプロ」くらいの開きがありました。同級生たちの神がかった作品を見て、打ちのめされていきました。
勇気を持って飛び込んでみたは良いものの、「自分はここでは世の中に何も貢献できない人間なんだ」「やっぱり歯医者を目指しておけばよかった」と、すごく後悔したんです。自分の生き方が分からなくなって、アイデンティティがグラグラに揺らいでいたのが私の20代前半でした。
先輩から声をかけてもらって始めた、学習塾の講師アルバイトでした。そこで担当した中学生の生徒がすこし背伸びした志望校に合格したとき、親御さんと一緒に目の前で涙を流して喜んでくださったんです。「自分は誰の役にも立てない」と思い詰めていた人間が、泣くほど喜んでもらえる経験ができた。「ああ、自分もこういう形で社会に貢献できるんだ」と、救われた気持ちになりました。
結果が目に見えて分かりやすい点ですね。大人数で巨大なプロダクトを作る仕事も素晴らしいですが、私にとっては、自分の関わりによって目の前の相手の成績が上がり、直接「ありがとう」と言ってもらえる、そんな手触り感が何よりシンプルで、楽しくて仕方なかった。仕事というものの動機や原点が、完全に決まった瞬間でした。
私が行なったことはすごく基本的な所作の話でした。私自身が中学生のときに数学を習っていた先生が、書くことや自分で考える大切さ、つまり「自立」を教えてくれる方でした。
私が生徒を持つようになったときも、解き方を教えること以上に、「まずは自分で解かせる」という勉強のやり方を徹底しました。
そうすると、面白いくらいに結果が出始めました。やはり「勉強は自分で手を動かして考えないと身につかない」と確信できましたし、それはその後の大きな自信になりました。
いえ、全く計画的ではなかったです。
最初に入ったのが小さめの会社でしたので、塾の講師をしながらも、営業から経営の悩み、組織づくりまで、あらゆることに関わらせてもらえました。自分の想定していた人生からは遠く離れた場所でしたが、「任されたからにはやりきりたい」と無我夢中で会社づくりにコミットしているうちに、どんどん世界が広がっていきました。
起業後も、東日本大震災やコロナ禍といった外的要因に直面するたびに、どうやって目の前の課題を乗り越えるかを必死に考え、結果として事業が広がっていった感じです。
私自身が秋田の山の中にある高校の出身で、当時は勉強する環境も進路の情報もほとんどない時代でした。
しかし社会人になって東京に勉強しに行ったとき、あまりの情報量の差に愕然としました。
東京で暮らす子どもたちは、毎日多種多様な大人の働き方を目にして、社会の貧富の差も、様々な生き方も肌で感じながら生きている。この差を突きつけられたときに、「これでは地方が衰退していってしまうのも当たり前だよな」と悔しさを覚えました。
地方にいると、例えば無意識のうちに「パイロットやアナウンサーは東京の人がやるものだ」と気後れして、最初から選択肢から排除してしまう風潮があります。でも、東京の子どもと地方の子どもとで、ポテンシャル自体は何も変わりません。違うのは、圧倒的な「環境の差」だけです。
だからこそ私は、地方の子どもたちが全国を舞台に戦うとなったときに、選択肢の幅を広げるための橋渡しになりたいのです。
「何もやらないよりも、0.5歩でも前に進めたい」という想いで、地方へ教育の場の展開を続けています。現在は個別指導塾「ベスト個別」を全国へと広げているところですが、将来的なビジョンとして、各地の教室が地域や行政、地元企業との橋渡しになるよう、今後も幅広くチャレンジをしていく予定です。
私から伝えたいのは2つですね。
1つ目は、「どの会社を選ぶか」よりも、「自分がその先の人生で何を大事にしたいか」を等身大で見つめることです。最初から「どの企業が安定していそうか」とか「これからの時流は何か」という「外側の基準」だけで選ぼうとすると、時流が変わるたびに不安になって振り回されてしまいます。
ですので、自分の内側にある基準。つまり「時間を忘れて集中できることは何か」といった「好き」に向き合ってほしいと思います。好きなことなら自然と努力ができて、長く続けられますから。
「東京一極集中や、大企業だけが正解だと思い込まないこと」です。
大企業だから良いとか、東京だからキラキラしているという観点だけで飛びついてしまうのは、自分にとって本当に幸せなのかを一度考えてみてほしいですね。
地方にも面白い会社や豊かな生き方はたくさんあります。新卒で入社した人の一定数がすぐに辞めてしまうという現実がありますが、それは自分の好きではなく、「会社そのものの見栄え」を見て選んでしまっているからではないでしょうか。
自分の等身大の興味に向かって一生懸命に動き、やりきれる力を身につければ、どんな業界であっても必ず食べていけるようになります。そしてどの業界、どの会社であっても、結果を出す人はとことんやりきって成果を出せるはずです。
仕事というものは、ある程度全体像が見えるところ、あるいは成果が出るところまで一度「やりきる力」を発揮してみないと、本当の面白さは見えてきません。目の前のことにがむしゃらに集中して、自分だけの「宝物」を掘り出すまで頑張ってみる。その経験こそが、どこに行っても通用する自分の強みを育ててくれるはずです。
志やビジョンなど、最初から大きなものを持っている必要はありません。私だって、最初は目の前の生徒の成績を上げることに必死でした。それが仲間を連れて進むうちに、「業界の働き方を変えたい」「地方の教育格差をなくしたい」と、だんだん育っていったものです。「ねばならぬ」という義務感ではなく、「これがやりたい」という主体性を持って、等身大の自分から一歩を踏み出していってほしいなと思います。
「失敗しない会社選び」を求めて迷路に入り込みそうなときこそ、一度外側の評価軸を捨てて、「自分はどんな瞬間に貢献の実感を得られるのか」という問いに戻ってみる。等身大の自分から仕事を見つめ直す大切さを、深く実感させられる取材でした。
編集:吉田 麻子
地域都市を中心に、独自の個別指導スタイルを全国に展開する教育企業。子どもたちが自ら考え、学ぶ「自律学習」の定着と、地方における教育の選択肢を広げる活動に注力している。