今回インタビューに応じてくださったのは、独自の心理技術を体系化した「潜在意識アカデミー」の運営や、組織開発コンサルティング事業を展開しているワンネス株式会社の石山氏。
やりたいことが見つからずに焦りや違和感を抱える学生に向けて、「働くことの本当の面白さ」を紐解く問いを投げかけます。
振り返ればたくさんのターニングポイントがありますが、一番の起点となったのは20代の頃、ライブドアで約600人ものスタッフを抱える事業のプロデューサーを務めていた時期ですね。組織のマネジメントにはものすごく苦労しました。
もう毎日毎日、社内のどこかでトラブルが発生していました。部署間でコストの負担の押し付け合い、社内の人間関係トラブル、協業したパートナー企業から損害賠償を請求する裁判を起こされたり……。
中間管理職という立場上、私はそれらのトラブル解決にあたり、頭を下げ、対応に追われ続けなければなりませんでした。毎週のようにそうした事態に対処しているうちに、「なんとかしてこのトラブルの根本原因を解決したい」と思ったんです。
どんな出来事も、根っこに必ずあるのは、人間の「感情」なんですよね。そして、その感情を作り出しているのは、人間の「無意識」の領域です。
当時はよく世間で「意識改革が必要だ」と叫ばれていましたが、そもそも「意識とは何か」を誰も定義できていないのに、改革なんてできるわけがない。そう痛感し、強い違和感を抱きました。そこから私は、脳科学、心理学、生物学をはじめ、2000年以上前から続く思想や哲学、宗教まで、人間の心を紐解くあらゆる領域の本を貪るように読み漁りました。
最終的には、地球上で「悟り」を開いたと言われる人物を世界中で20人ほど調べ、うち7人の人物に直接会いに行ったんです。その中で「この人に学ぼう」と師を1人決めたまさにその瞬間に、あの「ライブドア事件※」の渦に巻き込まれることになりました。
※編集注:ライブドア事件…2006年1月にIT企業のライブドア(当時社長・堀江貴文氏)が証券取引法違反(偽計および粉飾決算)容疑で強制捜査を受け、当時の経営陣が逮捕・起訴された経済事件。
事件の対応をなんとかこなした後、約7年間、それまでのビジネスの第一線から離れ、精神世界や人間の意識を深く見つめる修行の時代を過ごしました。師の活動を手伝いながら自分の内面と徹底的に向き合い、人間の感情がどう動くのかを泥臭く探求し続けました。
そして、そこで学んだ知見を、再び実際のビジネスの現場で使ってみたんです。すると、あれほど日々悩まされていた人間関係のストレスや組織の摩擦が、まるで嘘のようになくなっていきました。
正しい仕組みだけでは組織は変わらない。人の感情や無意識を整えることこそが大切であるという、この身をもって得た確信が、現在の会社を起業する原点になっています。
一言で言ってしまえば、仕事は「最高の遊び」であり「ゲーム」ですね。今は物質的な欲求よりも、「承認欲求」や自己実現の欲求が強い時代です。
仕事とは、まさに「社会から必要とされるかどうかを競う、最高の承認ゲーム」なんです。自分の持っている力を発揮して、周りに価値を認めてもらう。そのステージを一つずつクリアしていく感覚を持つと、働くことが義務から面白いものへと一気に変わっていきます。
ここが多くの人が勘違いしやすいポイントなのですが、自分の価値というのは、自分で決めるものではなく「周りの人」が見つけてくれるものです。
例えば、私の知り合いに大手広告代理店でコピーライターをやっていた方がいます。彼が若手の頃はごく普通のコピーライターの1人でしたが、目の前の仕事を実直にやり続けていたんです。
すると、周囲の先輩やクライアントから「あなたが書くコピーは、人の心を動かしている」「人事系のコピーライティングなら君に任せるのが一番だ」と、少しずつ声が掛かるようになりました。気づけば社内で独自のブランディングが確立され、替えのきかない存在になっていたんです。
彼自身の価値を決めたのは、彼本人ではなく、彼の仕事を見ていた周りの人たちでした。
技術が認められて競合がいなくなれば、自分で自分の値段を決められるようになり、働き方の交渉も自由にできるようになります。まずは目の前の仕事に誠実に向き合い、自分の価値を周りに見つけてもらうゲームを徹底的に楽しむこと。それができたら、次は「自分はこうしたい」という意志を形にする自己実現のゲームへと進めばいいんです。
最初からやりたいことなんて分からなくて当然です。
SNSを開けば、同世代でやりたいことを見つけてキラキラ輝いて見える人たちがたくさん目に入ってきますよね。でも、そういう人たちは、実は幼少期に深く傷つけられるような強烈なトラウマや、負のエネルギーを背負っていることが往々にして多いんです。
例えば、幼い頃にものすごい貧乏をして悔しい思いをしたから「絶対にお金持ちになりたい」と執念を燃やしていたり、学校でいじめに遭って誰からも無視されたから「何が何でも人に認めてもらいたい」と必死に表現の場を求めていたり。弓矢と同じで、後ろに強く引くほどの痛みや苦しみがあるからこそ、その反発力で矢は前方に遠くまで飛んでいく。
その「引きの強さ」があるからこそ、前に進む強いベクトルが生まれ、結果的に周囲にはキラキラした成功者のように見えているだけなんです。
そうです。それはある意味、これまで大きな理不尽に晒されず、恵まれた環境で育ってきたという「幸せの証拠」なんですよ。だから、無理に苦しい負のエネルギーの世界に飛び込んで、自分を傷つけるような原体験をわざわざ探す必要はどこにもありません。
20代のうちに絶対にやってほしいことがあります。それは「絶対に遠慮をしない」ということです。
仕事の進め方や社会の仕組みが分からないのは、新人なのだから当たり前のことです。それなのに変なプライドを守ろうとして、縮こまってしまうのはもったいない。プライドを捨てて、先輩や上司に質問しまくればいいんです。
今の若い人たちはものすごく優秀で礼儀正しい反面、どこか遠慮がちに見えます。でも、もし後輩から「先輩、ちょっと相談したいことがあるんです」と言われたら、大抵の大人は可愛いなと思って喜んで応えてくれますよ。そうやって少し図々しく大人の懐に飛び込んでいくと、周りの先輩たちがあなたを次の仕事や社会の繋がりへと引き上げていってくれます。
最初から完璧なキャリアプランなんて必要ありません。植物に毎日水をやるように、信頼できる人間関係の中で、焦らずゆっくりと自分の「やりたいこと」の芽を育てていけばいいんです。
私自身も、修行の時間を経てようやく今の仕事観にたどり着きました。
仕事を通じて出会う人々は、あなたの人生を豊かにしてくれる師のような存在になります。まずは目の前の人との関わりを大切にしながら、社会というゲームを存分に楽しんでほしいと思います。
「やりたいことがないのは、幸せの証拠」。その言葉は、就活の中で焦りや不安を抱く多くの学生にとって、張り詰めた心をそっと解きほぐしてくれる温かいメッセージになるのではないでしょうか。まずは信頼できる大人の懐に飛び込んでみる。そんな一歩から、自分だけの「働くゲーム」が始まっていくのかもしれません。
編集:佐藤 由理
2012年設立。独自の心理技術を体系化した個人向けの「潜在意識アカデミー」の主宰や、企業向けの組織開発コンサルティング、次世代リーダー育成支援を展開。個人の自己実現と組織の摩擦解消を両立し、心の社会課題解決に取り組んでいる。